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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)164号 決定 1984年6月13日

抗告人 山形節子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状記載のとおりである。

二  抗告人は、本件売却許可決定の言渡しを受けた株式会社ミヤマが本件抵当債務の連帯保証人であることを理由に、民事執行法第一八八条において準用する第六八条を類推適用して、同会社の買受けの申出を認めるべきでなく、これを看過した本件売却許可決定は違法である旨主張するので、次に検討する。

本件記録によれば、株式会社ミヤマは、抗告人が昭和五五年四月一五日本件競売申立債権者である日本ハウジングローン株式会社(以下「日本ハウジング」という。)から二、二三〇万円を利息年九・八四パーセント、損害金一四パーセントの約で借り受けた際、抗告人の委託を受けてその連帯保証人となり、本件各不動産につき、日本ハウジングの本件各抵当権の次の順位で、同月一五日付停止条件付代物弁済(ただし、右停止条件は保証委託による求償債務の不履行である。)を原因として、同月一六日停止条件付所有権移転の仮登記を受けたこと、原審は期間入札の方法により本件各不動産を売却に付し、株式会社ミヤマが入札価額二、一〇〇万円で最高価買受申出人となり、昭和五九年三月七日本件売却許可決定の言渡しを受けたことが認められる。

ところで、抵当権の実行としての競売にあつては、抵当権者が民法第三八七条により付与された売却権能に基づき、国家機関である執行裁判所に目的不動産の売却を申し立て、これに基づき右不動産が売却されるものであるから、本来ならば債務者も買受けの申出をすることができる筋合いであるが、民事執行法は、抵当債務の弁済をしない債務者に買受けの申出を認める実質的な必要性はないとの政策的配慮に基づき、債務者の買受けの申出を禁止したものであつて、その法意に照らすときは、みだりに第六八条の趣旨を拡張して、類推解釈をするのは、相当でないといわなければならない。のみならず、連帯保証人である株式会社ミヤマは、民法第五〇〇条にいわゆる弁済をなすにつき正当の利益を有する者であり、抗告人に代つてその債務を弁済するときは、同法第五〇〇条、第五〇一条により、日本ハウジングの有する本件各抵当権は、その被担保債権とともに株式会社ミヤマに当然移転し、同会社は、移転に係る本件抵当権を実行するか、それとも弁済に基づく求債権を行使するかを自由に選択できる地位に立つ者であるから、必ずしも、抗告人の主張するような債務者と同視しうる立場にある者ということはできない。そして、民事執行法第六八条は、債務者の買受けの申出のみを禁止し、それ以外の者の買受けの申出を禁止していないのであるから、株式会社ミヤマのような連帯保証人も、最高価買受申出人となり、売却許可決定を受けることは、許されるものというべきであり、本件売却許可決定には、何ら違法の点はない。

三  よつて本件抗告は、理由がないから、棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 柏原允 吉野衛 山崎健二)

執行抗告状

東京都調布市仙川町一丁目一五番五三号

抗告人 山形節子

電話三〇八(一六四四)

東京地方裁判所昭和五七年(ケ)第一八六〇号不動産競売事件につき、同地方裁判所が昭和五九年三月七日言渡した売却許可決定に対し執行抗告する。

抗告の趣旨

原決定を取消し、株式会社ミヤマに対する売却を不許可とするとの裁判を求める。

抗告の理由

一 原審は、本件競売につき次の違法があるのに、これを看過して売却を不許可とすべきにかかわらず売却を許可決定した。

(イ) 本件競売の競落人株式会社ミヤマには、買受申出の資格がない。

即ち、同会社は本件競売の原因である抗告人の競売申立債権者に対する債務につき抗告人から保証料を得て委託を受けてなした連帯保証人である。而して抗告人は、本件競売不動産の上に、申立債権者のためになした抵当権設定登記手続と同時に、競落人のために、昭和五五年四月一五日停止条件付代物弁済(条件 同日保証委託による求償債務不履行)を原因とする停止条件付所有権移転仮登記を経由した。(東京法務局新宿出張所昭和五五年四月一六日受付第一三二六〇号、但し土地については、停止条件付山形節子持分全部移転仮登記)

(ロ) 従つて、上記競落人は、抗告人に本件債務の不履行のあつたとき、申立債権者に保証債務を履行した上で、それによつて取得した求償権の行使をなすべき筋合である。いわば同競落人は、申立債権者に対しては債務者の立場にある。

従つて、債務者の買受申出を禁止した民事執行法第六八条の規定を類推適用して原裁判所執行官に於いて同人の買受申出を拒否すべきであるにかかわらず、それをなさずして同人を落札させ、原審は亦、上記事情を看過して上記競落の許可決定を言渡した。

二 よつて原決定は違法である。

なお、疏明書類及び資格証明書は、後に追完する。

昭和五九年三月一四日

抗告人 山形節子

東京地方裁判所民事部 御中

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